2020.02.12

【基礎知識 vol.7】ケース素材|腕時計の基礎知識・基礎用語

更新

※この記事はウォッチ買取応援団としてYoutubeにアップした動画、「ただの鉄じゃない!時計のケースに使われる素材とは|腕時計の基礎知識・基礎用語」の書き起こしです。

毎週1ワードずつ、時計の基礎知識・基礎用語をお伝えしていくコーナー。第7回目の今日は、『ケース素材』について、お伝えしていきます。材料の加工技術、年々進化しており、高級時計に使われる素材も、数えきれないくらい多様化してきています。ブランド独自のものも、どんどん増えていますよね。この記事では、多種多様なケースの素材について、どんなものがあるのか、特徴的な時計をピックアップしながら、確認していきたいと思います。

目次

大まかなケース素材

では、まずはケース素材、大まかに分類するとどんな感じなのか、ざっと見てみましょう。

大きくは、金属なのか非金属なのかという2分類に別れます。字の通りですが、金属なのか、そうでないのか。金属ケースは、さらに鉄系と非鉄系の2つに別れます。さらにさらに、非鉄系は、軽金属、ベース金属、レアメタル、貴金属などと細かく分類されています。

片や、非金属。金属ではないケース素材は、樹脂やセラミックがあります。様々な材料が使われるようになった現代。『機械を守る』というケースとしての役割は果たしながらも、いかに個性を持たせるかというところで、各メーカー工夫しているといった感じでしょうか。

鉄系金属素材ケースの時計

さて、ここからは分類ごとにご紹介していきます。まずは金属、鉄系から。

鉄はそのままだと錆びやすいため、時計のケースとしては、ステンレススチールという合金の形で使われています。直訳するとStain=汚れ(サビ)、Less=ない(にくい)、Steel=鉄 ですね。

合金というのは1つの金属に対して、別の金属もしくは非金属を混ぜ合わせたものです。ステンレススチールであれば、鉄に対して、クロムやニッケルなどを混ぜて作ります。

ここで混合する金属の種類と比率によって、出来上がる合金の硬さや耐腐食性が異なります。だから一口にステンレススチールと言っても多くの種類があるのですが、特定のものは、○○ステンレスや、SUS○○のように番号で分類されています。

例えば有名どころでは、316Lステンレス。画像はパネライのラジオミールGMT。

316Lは、近年多くの高級スポーツウォッチに使われている合金です。工業製品によく使用される304ステンレスのニッケル量を増やし、さらにモリブデンを添加。より錆に強く、海水や化学薬品に対する耐性が強化されています。ラジオミールは、海兵特殊部隊用に作られたモデルですから、海水に強い素材を使っているというのは、非常に納得がいきますね。

しかししかし!その上を行くものもあり。画像はロレックスのシードゥエラー。

こちらは、さらに耐腐食性が強化された904Lステンレスを使用しています。904Lは、化学産業の生産ラインなど、極めて腐食しやすい環境での使用を目的に作られた配合です。

現状それを時計に使っているのは、ロレックス、ボールウォッチ、ジラールペルゴと、極一部のブランドのみ。904Lは鉄の配合量が全体の半分程度となり、素材自体が高価であることに加え、非常に硬く加工しにくいという製造上のデメリットがあります。

そのため、誰もが誰も使えるというステンレスではありませんが、反面仕上げに時間を掛ければ非常に美しく光りますし、傷にも錆にも極めて強い。

さらにアレルギー反応も起きにくいという、大きなメリットもあります。316Lでも十分な性質を持っていますが、どうしてもアレルギーが心配という方は、904Lで検討されるほうが良いかもしれませんね。ただ、必ずしも良いわけではないので、お店の方にご相談の上、判断してください。

日鉄系金属素材ケースの時計

続いて、金属の非鉄系。鉄以外の金属をベース素材に使った時計です。

画像左は、タグホイヤー カレラ キャリバーホイヤー01。サンドブラスト加工を施した、つや消しのチタンケースを使用しています。

チタンは、一般的に軽金属に分類される非鉄金属ですね。非常に軽量で、なおかつ丈夫な素材です。表面が酸化被膜で覆われており、錆が内部に進行しないというのも大きなメリット。逆にデメリットとしては、加工が難しいことがあり、製造コストが高くなってしまうということがあります。

ゆえに、同じ時計の場合は、ステンレスのバリエーションよりも高額な設定になります。また、ステンレスに様な光沢感を出すことも難しく、表面の輝きは鈍い印象です。

続いて、右は、ベル&ロスのV2-94ブロンズ。銅ベースの合金を使用したケースです。ブロンズケースは、経年変化が大きいという特徴があり、生きている素材とも呼ばれています。

使用環境や、使用者の癖で、個体ごとに変化が異なる楽しさがありますね。自分だけのエージングを楽しみたい方に、おすすめなケース素材です。

非鉄系貴金属素材ケースの時計

続いても非鉄金属より、貴金属を使用したパターン。イエローゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールド、レッドゴールドなどなど。あとはプラチナですね。

18Kゴールドも奥深くて、金以外の素材をどう配合するかで、完成品の色合いが変わってきます。○○ゴールドという感じで、ブランドごとに名前が付いているのも面白いポイントです。

画像左は、オメガ スピードマスター ムーンウォッチ の限定モデル。ムーンシャインゴールドと呼ばれる独自配合の18金素材を、ケースとブレスレットに使用。色合い的には、イエローゴールド寄り。華やかなゴールドです。

画像真ん中は、ロレックス デイデイト40。独自素材エバーローズゴールドを使用したモデル。色合い的には、ピンクゴールド寄り。温かみのある赤みがかったゴールドです。色への工夫も興味深いポイントですが、時計として実用的かどうかという点も、各社いろいろ工夫しています。
ロレックスのエバーローズゴールドは、一般的なピンクゴールドにプラチナを配合し、塩素による変色が起こりにくい素材に仕上げられています。

そして、画像右。グランドセイコー エレガンスコレクション SBGZ003。グランドセイコーの独自機構スプリングドライブを、プラチナ製のケースに納めた最高級モデル。シンプルなデザインを、最高級の素材で表現するという、ブランドの美学を感じることができる一本です。

プラチナは、金同様に経年変化しにくい素材です。時計のケースに使われる場合でも、純度が高いまま使用されるため、いつまでも変わらない輝きを保ちやすい。一生ものの時計、上がり時計として選ばれるのはそのためですね。さらに、アレルギー反応が起きにくいというメリットもあります。

貴金属は、ステンレスやチタンでは感じられない特有の重量感があり、腕にズッシリと張り付くような着用感も魅力です。

非金属素材ケースの時計

続いて非金属、金属ではない素材みていきましょう。非金属にはどんなものがあるかというと、樹脂やセラミックですね。

Gショックなどのカジュアルウォッチによく使われているのは、ウレタン系の樹脂です。ウレタン樹脂は、柔らかく加工しやすい上、水に強いという特徴があります。

あとは樹脂系でいうとポリカーボネートや、アクリル系、エポキシ系など多数ありますが、ここで紹介しておきたいのは、カーボン素材ですね。カーボンケースは、作り方が2タイプありますが、特に近年注目度が高いのは、積層カーボンと呼ばれるもの。炭素繊維と母材となる樹脂を真空環境下で圧着、硬化させて作ります。

炭素繊維は軽くて強いという特徴を持っています。鉄の4分の1の重量でありながら、強度は10倍。さらに耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性にも優れています。その特性を最大限活かし、なおかつ審美性をも追求できるのが、積層カーボンです。

画像左は、ゼニス デファイ エルプリメロ21 カーボン。右は、パネライ サブマーシブル カーボテック。どちらも複数の素材バリエーションが存在するモデルですが、やはり注目度が高いのは、最近追加されたカーボン素材をケースに採用したモデルです。

独特のマーブル模様が目を惹きますよね。狙ったデザインではなく、製造過程で自然にできる模様なので、個体ごとに微妙に異なる点も、この素材の面白いポイントです。

続いては、セラミック。代表作はもうこれでしょうね。シャネル J12。ホワイトとブラックのバリエーションがありますが、どちらもセラミック素材です。

セラミックというのは、陶磁器と同じ素材。シリカやジルコニア、アルミナなどの混合物に、金属塩を混ぜて、1,300度以上の高温で焼成して作ります。原材料だけ見ると金属なんですが、焼いて組成が変化するため、金属ではなく、無機化合物という分類になります。

時計のケースに使われるセラミックは、非常に硬く、腐食しないというメリットがあります。が、製造難易度は高め。

セラミックは使用する金属塩の種類と、焼くときの酸素量の違いで、色や艶が変化します。なので、同じクオリティのものを量産となると、かなり厳重な管理体制が必要になります。

製造コストが掛かる分、時計の値段もお高め。J12の均一なカラーと艶感は、そう簡単に作れるものではないんですね。

まとめ

以上、本日は「ケース素材」についてでした・・・が、ここまでで物足りない方、いらっしゃいますよね?今日は主要なケース素材を一通り眺めてきましたが、ここから更にマニアックなところで、一部のブランドは、自社の時計用に「自社メタル」と称されるオリジナルの素材を作っているんですよね。ロレックスでいうと、セラクロムやロレジウムとかです。

理想の時計を作るためには素材から。物作りここに極まれり、ですね。自社メタルはまた別の機会にまとめてみたいと思います。

それでは最後に、これもお見せしておこうかな。こちら、ウブロ スピリットオブビッグバン イエローサファイア。この時計のケース、なんとサファイアクリスタルで出来ています。

サファイアクリスタルって、風防ガラスの素材じゃなかったっけ?こんな大きい塊で、しかも色付きで作れるものなんですね、、、。異端児ウブロ、恐るべし。