さぁ、今日はいよいよあのブランド、ヴァシュロン・コンスタンタンの番がやって参りました。なんてったってヴァシュロンは世界最古の時計メーカー。実に260年にわたって途切れることなく創造・成長、そして自己改革を続けてきた時計ブランド。そんなヴァシュロンの歴史に今回は迫っていきたいと思います。
3大雲上ブランドの一角として絶対的な地位を築いているこのブランド。かのホームページで、大切な価値観として掲げられているのは「調和」。そして更には2つのヒントが書かれている。それが「大胆さ」と「永続性」。
これを軸として、ヴァシュロンの歴史を見ていきたいと思うのですが、、、結局、「ヴァシュロンらしさ」とは一体何なのか?ヴァシュロンを好きな人でもこれを答えるのって、ちょっと難しいんですよ。これを見終わったのち、私達はどんな答えを見つけ出すのか、楽しみです。
目次
- 1755年創業|最古の時計ブランド
- 創業時から卓越したデザインセンス
- ブランドの礎を築いた3人の男たち
- パンタグラフ生みの親|ジョルジュ=オーギュスト・レショー
- 1880年 マルタ十字ロゴの登場
- ヴァシュロン・コンスタンタンの『らしさ』とはなにか
- ヴァシュロン・コンスタンタンの歴史的名作
- ONE OF NOT MANY
- ジュネーブシールとヴァシュロン・コンスタンタン
1755年創業|最古の時計ブランド
さて、ヴァシュロンの創業は1755年。実に260年以上も前のことです。場所はスイスのジュネーブ。職人の住まう街として知られた街ですが、この頃にはもう時計や宝飾、金細工など多くの職人たちがお互いに切磋琢磨して栄えていました。
画像、出ているかと思いますが、私達が抱く中世ヨーロッパの雰囲気そのままといった感じです。1755年はマリーアントワネットの生まれた年。フランス革命の直前ですね。日本だと大体徳川幕府8代将軍・吉宗の時代。時代劇で有名な暴れん坊将軍の頃です。
そんな時代の中、海を隔てたスイスでは若干24歳のジャン=マルク・ヴァシュロンが初めて時計職人を雇い入れました。
それが1755年9月17日。当時交わされた雇用契約書が残っていますが、この日がヴァシュロンブランドの誕生の時だとされています。
ちなみによく比較に挙がる他の雲上ブランド、パテックフィリップの創業は1839年、オーデマピゲは1875年の創業です。およそ一世紀も先に始まっているんですね。
で、このジャン=マルク・ヴァシュロンも他のブランドの創業者同様、優れた時計師でした。
創業時から卓越したデザインセンス
彼の制作物とされるポケットウォッチが残っていますが、どうでしょう、このデザインのセンス。もちろん技術的な素晴らしさもあるのでしょうが、僕は何と言っても、このデザインが凄いと思う。
外側はアラビア数字で60分表記、その内側にローマ数字で12時表記。アラビア数字は少し平べったくなってかわらしい雰囲気で描かれているのに対し、線で構成されたローマ数字はやや縦長でクールな印象を加えています。
親しみやすいスタイリッシュなデザインを、この少ない要素だけで成立させるのかと、驚きました。これ、260年前ですよ?今でもこのデザインの時計があったら、みなさんどうですかちょっと買いたくなりませんか?
そしてケースだけでなく、ムーブメントの方にも装飾をしているという。これもまた美しい。
技術と、そして美しさ。ヴァシュロン的なセンスと言うもの。それはブランドアイデンティティとして、継承されていくものとなります。
ブランドの礎を築いた3人の男たち
さて、まずは創業者のジャン=マルク・ヴァシュロンについて触れてきましたが、ヴァシュロンのブランド確立において重要な男があと3名います。
と言ってもここはシンプルです。同時期の3名でそれぞれに役割があった。つまり、ヴァシュロンというブランドの礎を築いた3人、ということです。
まず一人目はジャック・バルテルミ・ヴァシュロン。
創業者の孫で3代目にあたる人物です。1810年に家業を継承します。彼もまた技術者としてミニッツリピーター等、複雑機構を得意としていた様子。
そんなジャックが惚れた男がいます。それが、フランソワ・コンスタンタン。
企業運営や営業に長けていたとされるフランソワをジャックは共同経営者として迎えます。
そうして1819年、社名がヴァシュロン&コンスタンタンとなります。「&」は1970年代に外されますが、ここで私たちの良く知る名前が生まれたわけです。
フランソワの参画もあり経営は積極的な拡大路線を進みます。フランスとイタリアへ初の輸出を行う等、精力的に展開。この時期に後のイタリア王国初代国王を顧客にする等、トップブランドとなる下地を固めていきます。アメリカへの展開もこの時代に行われています。
どのブランドでもそうですが、やはり技術と営業、どちらも欠かすことが出来ませんね。この辺りの話なんてまるで本田宗一郎と藤沢武夫のようじゃないですか。出来るビジネスマン、フランソワ・コンスタンタンの名言を一つご紹介します。
『できる限り最善を尽くす、そう試みる事は少なくとも可能である』さて、販路が拡大されても商品が無くては話になりません。
ということでジャック・バルテルミ・ヴァシュロン、フランソワ・コンスタンタンに続く3人目の男が登場します。それがジョルジュ=オーギュスト・レショー。
パンタグラフ生みの親|ジョルジュ=オーギュスト・レショー
時計技士として参画していたこの人物、同じ形を転写、拡大縮小できる工作機械の「パンタグラフ」を始めとする新しい工具を設計し、時計の製造方法に革命をもたらした人物です。
その功績は大きく、1844年には「ジュネーブの産業にとって、最も価値のある発見を行ったこと」に対し、ヴァシュロン・コンスタンタンとレショー個人に対してメダルが授与されています。
ちなみに、この時点、1844年でヴァシュロン創業約90年です。パテックフィリップが創業5年目、オーデマピゲが生まれる30年前となります。最古の時計メーカーって感じ、ちょっとしてきましたね。笑
さて、こうしてジャン=マルク・ヴァシュロンによって生み出されたブランドは、中興の祖である3代目ジャック・バルテルミ・ヴァシュロン、そのパートナーたるフランソワ・コンスタンタン、ジョルジュ=オーギュスト・レショーという男たちの活躍を経て不動の地位を得るに至ったわけです。
1880年 マルタ十字ロゴの登場
そして1880年に今も残るマルタ十字のロゴが誕生します。このシンボルは、かつて時計のムーブメントに使われていた部品にデザインの着想を得たと言われています。
これ以降のヴァシュロンは正にトップランナーという感じで、精度コンクールでの高評価、権威ある賞の受賞、王侯貴族等ロイヤルカスタマーの獲得等、その時節に応じ素晴らしい成果を収めていく事となります。
もちろん技術的にも余念なく、高度な認証制度であるジュネーブシールの取得や、1992年に世界最薄のミニッツリピーターを開発する等、研鑽を続けています。
ヴァシュロン・コンスタンタンの『らしさ』とはなにか
さて、、、いかがでしょうか?ここまで見てきてヴァシュロンが素晴らしいブランドであることは疑いようもありません。このクラスになるとハイレベルのオールラウンダーなので正に隙無しといった感じです。
しかし、何がヴァシュロンらしさなのか?これがなかなか見えてこない。そう思いませんか?私も一応ヴァシュロンを持っていますし、一本買うと他にも気になってくるのでこれまでにも色々と見てきてはいます。
だから「あーこれってヴァシュロンっぽいなー」というのが何となく分かっててもそれが何なのかを一言で表現することができません。
しかし、そのリサーチの中で正に我が意を得たりというコメントを見つけました。
KOMEHYOさんのブログから。
【しかし不思議なところは、「特徴が見えない」にもかかわらず、間違いなく「独特の世界観」を感じるブランドでもあるのです。言葉では表現しにくいのですが、やはり時計愛好家の方々は、「ヴァシュロンコンスタンタンらしさ」を知っています。】
…いかがですか?特にヴァシュロン好きのあなた!これちょっと分かりますよね?で、ダメ押しってわけじゃないですけど、クロノスさんの方でも近しい意見が見られたのでこちらも見てみて下さい。
【ヴァシュロン・コンスタンタンのデザインには、一定のコードが存在しないように思われる。それでもなお一貫して、ヴァシュロン・コンスタンタンの造形とは、それ以外の何物でもあり得ない。】
【ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計に体系的なデザインコードは存在しない(あるいはごく近年まで存在しなかった)となるのだが、それだけでは各時代のプロダクトが持つ、普遍的な造形美を説明することはできない。なぜならどの時代を切り取ってみても、〝ヴァシュロン・コンスタンタンらしさ〟とでも言うべき、独自性が見て取れるからだ。】
どうでしょうか?これめっちゃ分かりませんか?
世界観としか言いようのない、でも共有できる何かがあるんです。それはもう「考えるんじゃない。感じろ」の領域なのでホームページより印象深いいくつかの作品をご覧いただきましょう。
そしてその後には最近のヴァシュロンの動きを確認して締めていきますね。それでは古い時代からの作品をどうぞ。
ヴァシュロン・コンスタンタンの歴史的名作
1755年、創業者ジャンの作品
1790年、エングレービングが施された複雑機構の壁掛け時計
1824年、ブルーのエナメルで描かれた懐中時計
1869年、ポケットクロノメーター
1889年、レディース用のリストウォッチ
1905年、ミラノ万国博覧会グランプリ受賞作品
1912年、トノー型ケースの登場
1918年、アメリカ陸軍用のポケットクロノグラフ
1921年、米国市場開拓用の新商品
1923年、「アルカディアの牧人たち」
1927年、アールデコのクリスタルウォッチ
1929年、グランドコンプリケーションのポケットウォッチ
1954年、ツバメの名を持つリストウォッチ
1957年、最もシンプルなクラシックスタイル
1977年、オーヴァーシーズの前身「222」
1996年、第一世代オーヴァーシーズ
2005年、250周年コレクションたち
2012年、トノー型ケース登場100周年
印象深いのって言っておいてほぼ全部ピックアップしてました。笑
仕方ないんだよ、全部ヴァシュロンっぽいって思っちゃうんだから!笑
皆さん、いかがですか?ヴァシュロンらしさ、何となく感じるところはありましたか?
ちょっとここで教材として、分かりやすいところで現行のパトリモニーと、オーヴァーシーズ、フィフティーシックスの画像を、、、どん。
今の作品も歴代のコレクションと通じるところ、何となく見えてきませんか?
またもしお時間があれば古い作品も見直してみてみて下さい。また違った発見があると思います。さて、新旧の作品を眺めたところで、最新のヴァシュロンの動きを眺めつつ、まとめて参ります。
ONE OF NOT MANY
2018年から展開しているキャンペーン、「ONE OF NOT MANY」。「少数精鋭の一員」と呼称されるキャンペーンです。
ヴァシュロンはこの中で、自らが少数精鋭であること、そして自分たちが少数精鋭から評価を獲得する存在であること、それに相応しい最高の作品を提供していく喜びを語っています。
キャンペーンでコラボレーションした人物はミュージシャンやデザイナー、フォトグラファー等、独自の個性と卓越性を追求している人物たちです。アート関連に寄っているのは正にヴァシュロンっぽいところですね。パーソナリティと作品の融合(ハーモニー)がそこにはある。
そして、こうしたメッセージを踏まえてもう一度考えていきたいのが、「ヴァシュロンの追求するものは何か?」ヴァシュロンが大切にするのは「調和」のエスプリ(精神)であり、大胆さと永遠性だということでした。
大胆さとは、すなわち変革。自ら時代の先端を切り開く精神。永続性とは、すなわち伝統。自らはレガシーの継承者として守り抜く精神。
ジュネーブシールとヴァシュロン・コンスタンタン
例えばジュネーブシール。ヴァシュロンもこれを大切にしていると思いますが、自社の品質保証のためだけに取得しているのかというと、そうじゃないんじゃないかと思うんですよ。
実際パテックなんかはジュネーブシールを脱退し独自の規格に移行しています。ジュネーブシールの取得には品質のみならず、「全ての部品製造及び組み立て作業がジュネーブ州内で行わなれた」ことが求められています。簡単に言えば、ジュネーブの時計産業の保護の観点もあるということです。
ヴァシュロンは積極的にこの役割を担っているように思います。つまり自ら時代の最先端のプレイヤーであると同時に、歴史を保護し、育み、繋げていく保護者としての役割を、もちろん自覚しているだろうし、私達が思っている以上に大切にしてるように思うのです。
未来と過去。
革新と伝統。
破壊と継承。
創造と模倣。
個性と普遍性。
ヴァシュロンが大切にする「調和」というのは相矛盾した真逆の価値観を重ね合わせ、再解釈し、そしてまた新しいものを創り出していくことなのかなぁと。
だからこそ、何も変わらないし、だからこそ、何もかもがいつも新しい。これがヴァシュロンというブランドなんだなぁというのが今回の私の感想でした。みなさんはどう思いましたか?