2019.04.06

ゼニス ZENITH とは|ブランド誕生の歴史と、エルプリメロ開発の秘密に迫る

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ハイビートの高精度ムーブメントの開発を得意とするスイスの高級腕時計ブランド『ゼニス ZENITH』。ブランドの誕生から、現在の主力シリーズであるデファイの登場まで。ゼニスの魅力を歴史とともに辿っていきたいと思います。

目次

新CEOが率いるゼニスの今

ではまずは、ゼニスというブランド、あまりご存知ないという方のために、ブランドの特徴について紹介していきます。

ゼニスは、1865年に誕生したスイスの時計ブランドです。創業初期は懐中時計や航空機、自動車に搭載される各種計器を製造しており、1940年代より腕時計の製造をスタートしています。

ゼニスというブランド名は、1900年に発表された懐中時計のモデル名がそのままブランド名になったもので、『天空の頂点』を意味しています。 現在のラインナップは大きく4種類ありますが、現在のフラッグシップモデルとなるのは、デファイシリーズ。 2019年のバーゼルで発表された新作 デファイ インヴェンター は、129,600振動という驚異的なハイビートムーブメントを搭載し、業界を驚かせました。

このモデルは、2017年よりCEOに就任したジュリアン・トルナーレ氏の指揮のもと開発が進められた『デファイラボ』というコンセプトモデルを商品化したものであり、新生ゼニスの大きなチャレンジの成果として、今後の展開も期待されています。

腕時計の製造開始は1940年代から

さて、新体制になり、伝統を守りながらも、これからの展開も楽しみなブランド、ゼニス。1940年代より腕時計の製造を始めますが、それ以前の懐中時計や計器の製造で培ってきた技術は、スイスでも屈指のレベル。

1948年に登場した伝説的なムーブメントcal.135は、スイス・ヌーシャテル天文台の精度コンテストにおいて、高精度の新記録を打ち立て、235もの賞を受賞したほどでした。

名機エルプリメロを発表|しかし待ち受けていたのはクォーツショック

そこから約20年。1969年には、かの有名なクロノグラフムーブメント『エル・プリメロ』を発表。毎時36,000もの振動数を誇るテンプにより、1/10秒単位の計測を可能にしました。 しかし。この時代、時計ファンにとってはもはや説明不要の大事件がありますね。そう、クォーツショックです。

日本のブランド・セイコーが発表したクォーツ式ムーブメントにより、それまで高級品だった腕時計は、安価での量産が可能なものへと変化しました。そのため、スイスの機械式時計ブランドの多くは、この時期に大打撃を受けています。ゼニスも例にもれず経営難に陥り、アメリカン・ゼニス・ラジオという企業に買収されてしまいます。

さらに不運は続き、1975年には会社の方針として、機械式時計の製造中止が決定。それまで使用してきた図面や金型、部品、工具に至るまで、機械式時計に関わるすべてを破棄するよう命令が下ったのです。

エル・プリメロの原案から関わったメンバーには、絶対納得できるはずのない命令ですよね。しかしながら、職人たちの必死の説得は届きませんでした。

当時、その職人の中にシャルル・ヴェルモという人物がいたのですが、ゼニスファンの方であれば聞いたことのある名前かと思います。彼は、最後まで会社の決定を受け入れることができず、なんと、図面、金型、部品、工具などすべてを靴箱に入れ、工場の屋根裏に隠したそうです。

会社の知的財産を隠してしまうというのは、かなり大胆で勇気のいる行動だったと思います。それくらい機械式時計の復活を誰よりも信じていたんですね。 

そしてそこから約3年。ゼニスはまた別の会社に買収されてしまいます。ヴェルモ氏は、そのタイミングで再び経営陣を説得し、機械式時計の可能性、そしてエル・プリメロの可能性を伝え続けました。

エルプリメロの復活

それからどうなったかというと、今現在、エル・プリメロといえば名機中の名機として知られていますよね。1984年に見事に復活を遂げたのです。再製造が決まった際、ヴェルモ氏からゼニスに返却されたものは、金型だけで150個、総重量1トンを超えていたというから驚きです。

工場の屋根が抜けなくて本当によかったと思います。もし屋根が抜けて、早々の隠してたのがバレていたら、、、ロレックス・デイトナの進化も無かったかもしれませんからね。

かくして、見事復活を遂げたエル・プリメロは、ベースムーブメントとして、デイトナをはじめ、多くの有名モデルで使用されることとなりました。ざっと有名どころ並べて見ると、タグホイヤー・モンツァ、パネライ・ルミノール、ウブロ・スピリットオブビッグバン、ルイヴィトン・タンブールなどです。

同ブランドにおいては、薄型ケースの高級ドレスモデル『エリート』の原型も、実はエル・プリメロであること、ご存知でしたか? 

ゼニスの未来

今年2019年は、エル・プリメロ誕生から50周年ということで、記念モデルも登場しています。また、現在の主力シリーズ・デファイやクロノマスターでも、エル・プリメロの名を冠しているものが多くあり、ブランドの敬意を感じますね。

すべてはたった一人の信念が生んだ、勇気ある行動から。

ゼニスの時計を眺める際には、途切れかけた未来へ繋がる歴史的遺産を残した英雄シャルル・ヴェルモ氏へ、ぜひ敬意を表してご覧いただければと思います。